あらゆる物質を精霊石に変える賢者の石。飲むと永遠の命が得られるエリクサー。
伝説の中でのみ存在する秘宝を求めて、数多の錬金術師がその研究に生涯を捧げたが、全てが失敗に終わった。
しかし、その過程で様々な霊薬が生み出され、蓄積された知識は現在の錬金術の礎となった。
錬金術師の作り出す霊薬は、入手困難な材料を必要とすることが多く、それらの材料を入手するため、精霊協会へ冒険者の派遣が要請されることがあります。
ハイデルベルクにあるエーレンフリートの研究所を訪れたパーティーは、手入れのされていない髪をかき上げながら現れた、一人の青年に迎えられた。
- エーレンフリート
- ……あぁ、あなた達がエルフの森まで同行してくれることになった冒険者ですね。
- 私の準備は出来ていますので、すぐに出発することにしましょう。
パーティーはエーレンフリートと共に、シュヴァルツヴァルトの森奥深くにあると言われるエルフの森へと向かった。
シュヴァルツヴァルトの森に辿り着いた一行は、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れた。
- エーレンフリート
- 私たち錬金術師にとってこの森は、錬金術に用いる様々な材料をもたらしてくれる貴重な森とされています。
- しかし、この森にまつわる噂のためか、森の持つ雰囲気のためか、好んで足を踏み入れる者はなく、狩人以外が訪れることはありません。
- そのため、この森の奥深くにエルフが住んでいることを知っている者は少なく、交流もほとんど行われていません。
- もっとも、人間を嫌っているエルフが、積極的に交流することなんて考えられませんが。
シュヴァルツヴァルトの森奥深くへと分け入った一行は、やがてエルフが住むと言われる森へと辿り着いた。
- エーレンフリート
- おかしいですね……
- 数年前にこの森を訪れたときは、森全体から精霊力が満ち溢れていたものですが、今は微かな精霊力しか感じ取ることができません。
森の奥へと進んでいた一行の足元に、突然一本の矢が突き刺さった。
- ???
- 人間達よ、今すぐにこの森から立ち去れ!
- エーレンフリート
- その声はシルギルですね。
- 私はエーレンフリート。長のエルドール殿に会わせていただきたい。
エーレンフリートの呼び掛けに答えるかのように、再び一本の矢が飛来して、エーレンフリートの足元へと突き刺さった。
- シルギル
- これが最後の警告だ。今すぐにこの森から立ち去れ!
- エーレンフリート
- これは困りましたね。
- シルギルはエルフの中でも特に人間嫌いだったのですが、それでもこのような行動に出ることはなかったのですが。
- これも、森に起きている異変と何か関係があるのでしょうか……
- このまま引き返したところで、精霊樹の水を手に入れることはできませんし、何より長からもっと詳しい話を聞かせてもらう必要がありそうですね。
- そういうわけで、長のいるところまで少し走りましょうか。但し、何があってもエルフ達を攻撃してはいけませんよ。
そう言い終えると、エーレンフリートは森の奥へと駆け出した。
- シルギル
- 我らの警告を無視するとは、愚かな人間達よ。
森の奥へと駆け出した一行に向けて矢が放たれた!
- ???
- そこまでだ。
一行の前に一人のエルフが姿を現すと、一行に向けて放たれていた矢が止んだ。
- エーレンフリート
- これはエルドール殿。警告を無視して、森へ立ち入ったことをお詫びいたします。
- エルドール
- 非礼な振る舞いがあったのはこちらも同様だ。非礼を謝罪し、傷の手当てをさせよう。
- 私について来るがよい。人間の錬金術師よ、そなたの疑問にも答えることができよう。
エルドールに連れられて森の奥へと進んだ一行の前に、枯れた一本の大樹が姿を現した。
- エーレンフリート
- これは……いったい……
- エルドール
- 精霊樹は、本来精霊界でのみ生育する樹木であり、物質界で生育することはない。
- それを、我らエルフの技により、物質界であっても、我らの森でならば生育することが可能になっている。
- しかし、我らの技を持ってしても、物質界に満ちた毒気を完全に消し去ることはできず、数百年に一度、精霊樹は蓄積された毒気により、枯れてしまうことになる。
- だが、案ずることはない。精霊樹は、数年の歳月をかけて蓄積された毒気を浄化し、やがて本来の姿を取り戻すことになる。
- エーレンフリート
- なるほど、これが精霊樹の浄化期というわけですか。
- それでは、精霊樹の水を手に入れるためには、浄化が終わるまで待たなければいけないわけですね……
- エルドール
- 数年の歳月は、我らエルフにとってはつかのまだが、人間にとっては長い年月か。
- 精霊樹の浄化を早める方法は一つだけある。
エルドールは一つの宝玉を取り出した。
- エルドール
- これは物質界の毒気を浄化することができる宝玉。
- 精霊樹の中でこの宝玉を用いれば、蓄積された毒気をすぐに浄化することができるだろう。
- 但し、精霊樹の中は非常に不安定な状態になっているため、浄化が終わるまでの僅かな間とはいえ、そこに留まることは危険を伴うことになるだろう。
話を聞き終えたエーレンフリートは、パーティーへと語りかけた。
- エーレンフリート
- 状況はエルドール殿が語られた通りです。
- 精霊樹の水は、漁師達から依頼された霊薬を作るために使用します。
- これは一刻を争うような事態ではありませんので、漁師達には事情を話せば、浄化が終わるまで待ってもらうこともできるでしょう。
- エルドール殿の申し出を受けるかどうかは、あなた達にお任せします。
- もちろん、返答に関係なく、ここまで同行いただいた分の報酬はお支払いします。