精霊協会に所属する冒険者には、能力が大きく制限されているものの、習得が容易な基礎精霊術に関する技術が与えられている。
精霊術は、肉体的な能力で劣っている人間が、強大な力を有する魔物に対抗するための、欠かせない力となっていた。
しかし、より強大な力を有する魔物に対抗するには、冒険者も新たな力を手に入れる必要があった。
習得が困難なものの、能力を余すことなく発揮できる上位精霊術――奥義――の習得である。
精霊協会を訪れたパーティーは、全身をローブで覆った男に迎えられた。
- エックハルト
- ゲート管理責任者のエックハルトだ。
- 詳細は事務方の連中から聞いているな?
上位精霊術の習得には、精霊と契約を交わさなければならず、そのためには、精霊の住む精霊界へ赴く必要があった。
しかし、人間の住む物質界とは異なる次元に存在する精霊界へ赴くには、物質界と精霊界を繋ぐゲートを利用するしかなかった。
精霊協会では、精霊界へ赴く冒険者に対して、ゲートを開放していた。
- エックハルト
- では、さっさと始めるぞ。
広間の中央には、精霊石で出来た巨大な環――ゲート――が設置されていた。
ゲートの環状部分には、複雑な幾何学模様が刻まれており、周囲には、エックハルトと同じローブに身を包んだ十人ほどの人間が立っていた。
エックハルトの合図で、一斉に詠唱が開始されると、それに呼応するようにゲートに刻まれた幾何学模様が輝き始めた。
詠唱と共に、輝きは増していき、詠唱が終わった瞬間、ゲートから一際強い輝きが放たれた!
- エックハルト
- 長くは維持できんぞ。通るならさっさと通るんだな。
輝きが収まったゲートの内縁部には、空間の歪みが生じており、そこから強い精霊力が放出されていた。
パーティーは意を決すると、ゲートの歪みに身を投じた。
- エックハルト
- そうそう、ゲートは精霊界への一方通行だから、戻ってくるときは自力で何とかするんだな。
- なぁに、心配することはない。精霊界へ行った連中の半分以上は無事に戻ってきている。
ゲートでの移動は一瞬の出来事であった。
精霊界へ足を踏み入れたパーティーの背後には、依然として空間の歪みが生じていたが、エックハルトの声が途絶えると、歪みは徐々に小さくなり、やがて消失した。
パーティーは周囲を見回したが、辺りには何もなく、ただ空間だけが広がっていた。
- ???
- ようこそ、精霊の力を求めしものよ。
声のした方へ視線を移すと、目を布で覆った一人の女が立っていた。
- ミレーユ
- 私は“契約者”ミレーユ。
- 古の契約に従い、資格あるものに力を与えています。
ミレーユの周囲に、靄のようなものが立ち込めたかと思うと、徐々に人の姿を形取り始めた。
- ミレーユ
- 戦い、力を示しなさい。さすれば、力を与えましょう。
- ミレーユ
- あなたを資格あるものと認め、力を与えましょう。
パーティーの目の前に、複雑な幾何学模様が刻まれた石が現れる。
- ミレーユ
- 受け取りなさい。その石に言葉を刻めば、それは力ある言葉となるでしょう。
パーティーが石を手にすると、パーティーを眩い光が包み込んだ。
光が収まると、パーティーの目の前にはゲートがあり、周囲をエックハルト達が取り囲んでいた。
- エックハルト
- おっ、やっぱり帰ってきたな。賭けは俺の勝ちだな。
パーティーの手に握られた契約石が、試練に打ち勝ったことを示していた。