カルフから精霊街道をさらに西へ進むと、星降る町メルンと呼ばれる小さな町があった。
メルンには、スタージュエルと呼ばれる星の光を放つ宝石があり、町は宝石から放たれる光によって、邪な存在から守られていると言われていた。
このスタージュエルの存在こそ、メルンが星降る町と呼ばれる所以であった。
そんなメルンの秘宝であるスタージュエルの輝きを維持するためには、一年に一度、天空の星が最も強く輝く夜に、星降る丘でその光を集める必要があった。
メルンの外れにあるこの丘は、森に近いということもあり、夜ともなると凶暴な獣が姿を現すため、町の人間ですら滅多に近付かない場所となっていた。
そのため、メルンでは、スタージュエルに星の光を集める間、凶暴な獣から身を守ってくれる冒険者の派遣を、精霊協会へ要請していた。
メルンへ派遣されたパーティーは、町の人々に迎えられた。
- フランク
- これはこれは、遠いところをようこそお出でくださいました。
- 見ての通り小さな町ですので、大したおもてなしはできませんが、夜までごゆっくりとおくつろぎくださいませ。
町の責任者と名乗るその男は、パーティーをうやうやしく迎えると、自分の館へと案内した。
パーティーは、フランクの館で心尽くしのもてなしを受けながら、夜が訪れるのを待った。
- フランク
- 皆様、そろそろお時間でございます。
- 今年の星の巫女に選ばれましたこの娘マリーが、スタージュエルを持って皆様と一緒に星降る丘へと参らせていただきます。
マリーと紹介された少女は、巫女装束に身を包み、手にはスタージュエルを携え、緊張した面持ちでパーティーに挨拶をした。
日が沈みゆく中、パーティーとマリーは、町の人々に見送られながら、星降る丘へ向けて旅立った。
- マリー
- ふぅ〜、疲れた。
町の人々の姿が見えなくなったとき、マリーはそう呟きながら大きく伸びをした。
- マリー
- あらやだ、私ったら。
パーティーの視線に気付いたマリーは、顔を真っ赤にしながらうなだれた。
- マリー
- 星の巫女なんて言っても、今年は私がたまたま選ばれただけで、普段はこういうことしてないから、こういうのに慣れてなくて……
慌てふためきながらも言い訳を試みるマリーであったが、やがてくすくすと笑い出した。
- マリー
- もう今更取り繕っても仕方ないわね。それに、一晩中、巫女様のように振る舞うなんて考えただけでもゾッとするわ。
- あっ、でも、フランクさんには内緒にしておいてね。
- あの人に知られたら『あれほど町の名誉を損なうようなことはしてはいけないと言っておいたのに、お前と来たら……』という風に、また長いお説教を聞かされるわ。
そう言うと、またくすくすと笑い出すマリーであった。
やがて、一行は目的とする星降る丘へ辿り着いた。
- マリー
- まぁ、なんて綺麗な星空かしら。
丘に辿り着いた頃には、日はすっかり沈んでいたが、代わりに空には満天の星が煌めいていた。
マリーはスタージュエルを取り出すと、空に向かってかざした。
- マリー
- こうしてスタージュエルを星に向けて一晩中かざしていると、今年一年の間、スタージュエルは消えることなく輝き続けるんですって。
- 私ね、この丘はもっと怖いところだと思っていたので、本当は星の巫女なんかに選ばれたくなかったの。
- でも、今は選ばれて良かったと思ってるわ。だって、こんなに素敵な所なんですもの。
空には満天の星が輝き、地上ではスタージュエルが星の光を受けて輝き、星降る丘は幻想的な光景に包まれていた。
- マリー
- それに、何かあっても皆様がいらっしゃるもの。
- そうそう、私達の町って小さな町にしては、冒険者になる人が多いんですよ。
- それも、星の巫女に選ばれた人に多いのよ。きっと、この素敵な夜の体験が、彼女達に冒険者を志す決意をさせたのね。
うっとりとそう語っていたマリーであったが、急にその表情が硬直した。
- マリー
- う…………う…し…ろ……
マリーが、わななく指先で指し示した先には、通常の狼の二倍はあろうかという巨大な狼が群れをなしていた。
パーティーは武器を構えると、襲い来る狼達を迎え撃った!