- ヴェルナー
- ……というわけで、君達にここの警護を依頼することになったわけだ。
- 怪盗だかなんだか知らんが、こそ泥風情に私の宝を手渡すわけにはいかん!
- 君達には高い報酬を支払っているのだから、それに見合うだけの働きをしてくれたまえよ。
- それから……
館を訪れたパーティーは、館の一室に案内されると、雇用主であるヴェルナーの熱弁に迎えられた。
部屋には、パーティーの他に、同じように警護を請け負ったと思しき、男と少女の二人組がいるだけであった。
- ヴェルナー
- ……こそ泥風情が私の宝を狙うなど言語道断!
- 是非、君達の手でこの思い上がりに正義の裁きを……
- 男
- すいませーん、ちょっとええやろか?
パーティーの隣で話を聞いていた男が、突然、話を遮って言った。
- ヴェルナー
- ……ん? 何か質問でもあるのかね?
- 男
- その怪盗が狙ってるっていうお宝って、一体、どんなもんなんやと思いまして。
その質問に、ヴェルナーの動きが止まった。そして、質問した男を睨み付けると、
- ヴェルナー
- それは君達には関係ないことだ。君達は自分の任務を全うすることだけを考えていればいい。
そう言うと、ヴェルナーは部屋から立ち去った。
- 男
- なんなんや、あの態度は。ちょーっと、気になったから聞いただけやのに。
- 少女
- 余計なことを聞くあんたが悪いんでしょ! 全く依頼人の機嫌を損ねてどうするのよ……
- 男
- まぁ、でも、おかげであの長ったらしい話から解放されて良かったやんか。
男はパーティーの視線に気付くと、パーティーに話しかけてきた。
- バッシュ
- あんたら協会の冒険者なんやて? そら凄いなぁ。確かに強そうな顔してるわ。
- そや、自己紹介まだやったな。傭兵やってるバッシュや。で、こっちのちっこいのがリク。
リクと呼ばれた少女は、バッシュの腕を掴むと、後ろに押しのけた。
- リク
- すみません、初対面なのに馴れ馴れしくて……
- あんた、ちょっとは礼儀ってものをわきまえなさいよ!
- バッシュ
- わきまえとるから自己紹介したんやんか。
- まぁ、ええわ。それより、あんたら知っとる? あのおっさんの噂。
周囲に聞かれないようにか、急に声のトーンを落として話し始めた。
- バッシュ
- あの人昔は精霊兵研究所の人間やったらしいわ。
- それもえらい凄かったらしいて、一時期はあのユストゥスと並ぶほどの天才とまで言われとったんや。
- でも、数年前になんや事件起こして、突然追放されたらしいんや。
- 何でも助手やった研究員を……
リクの鉄拳がバッシュの話を遮った。
- バッシュ
- いきなり何すんねん! このドアホ!!
- リク
- ドアホはあんたや! いきなり依頼人の悪口言ってんじゃないわよ!
- まったくもう……すみません、変な話を聞かせちゃって。それでは。
- ほら、行くわよ!
リクはそう言うと、バッシュを引きずりながら、指定された持ち場へ向かっていった。
後に残されたパーティーは、バッシュの話が気になったが、正門の警護に向かった。
正門に着いて周囲を警戒していたとき、館の中から爆発音が響き渡った!
- ???
- 出たぞー! 怪盗フェンリルだっ!
続いて聞こえた叫び声に、パーティーは館の中に駆け戻った!
広間には煙が充満し、館の使用人と思しき男が倒れていた。
- 男
- なんや思うたより早かったやんか。
声のした方に視線を移すと、顔を仮面で隠した男が立っていた。
- フェンリル
- せっかくやから自己紹介しとくわ。怪盗フェンリルや。他にも風の怪盗って呼ばれとるわ。
パーティーは素早く武器を構えると、臨戦態勢を取った。
- フェンリル
- いきなり物騒なやっちゃなぁ。まぁ、ええわ。邪魔するなら容赦せえへんで。
- フェンリル
- さすが、協会の冒険者さんや。
- しゃあない、奥の手使わしてもらうわ。ほな、いくでぇ。覚悟しいやぁ。
パーティーが身構えると、フェンリルは素早く館の奥へと駆け出した。
- フェンリル
- 残念やけど、これ以上あんたらの相手してる暇ないんや。
- ほな、またな。
倒れている者達は、眠らされているだけで、命に別状はなさそうであった。
パーティーは無事を確認すると、すぐにフェンリルの後を追いかけた。